某放送局から仕事場へ、およそ80年前の8ミリフィルムに残された日食の映像から、その撮影日時を特定して欲しいと依頼有り。
ともかく見せてくださいという話で持ち込まれた映像を確認すると、肝心の太陽映像は輪郭がぼやけていてそれだけでは特定が難しい。
だが、インサートカットに日食を見上げている割烹着姿の女性達の姿があった。白い割烹着を腕まくりし、少なくとも真冬ではなさそうである。
さらに、女性の顔の傾きから、最低でも30度以上、イメージ的には40度から45度くらい見上げているように見える。
そして、次のインサートカットでは手水鉢の水面に映った太陽を撮影している。
手水鉢が真円だとすると、円の潰れ具合から45度くらい斜め上から見下ろしている事になる。つまり、太陽は水面へおよそ45度で入射していることになり、これで日食時の太陽高度がほぼ確定できた。
次に、遺族の話から、撮影者の没年は1941年である事がわかった。
8ミリフィルムは日本では1932年から一般に市販されたという事なので、1932年から1941年までの間に新潟地方で観測可能な部分日食をリストアップしてみると合計5回であることが判明。
この中から、太陽高度が45度くらいで日食が起こるものを調べると、日食の発生時間が早朝だったり、食分が浅すぎたりするものばかりで、条件をすべて満足するものは一件しかなかった。これでほぼ間違いなく特定できる。
1936年6月19日。朝日映像が北海道で「黒い太陽」という記録映画と撮った同じ日に、市井のアマチュアカメラマンが新潟で日食映像を残していた事になる。
わずか数分の映像に残された断片的な証拠から、その日時を特定するという推理劇。本当にゾクゾクするエキサイティングな体験でした。