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2013年1月26日土曜日

電子化に最適なメモパッドを考える


以前の記事でキングジムの「ShotNote」について、「最近はよいカメラアプリが出てきたので邪魔っけなマーカーの印刷された専用のメモパッドやノートはもはや不要かも?」と書いた。
キングジムももちろんその辺りはリサーチ済みだったようで、紙資料の外側のコントラストの強い余白(この場合「余白」ではなく「余黒」というべきか)を認識し、それをガイドにして資料をきれいにデジタル化する新機軸の商品「ShotDocs」が売りだされた。
紙のまま保管することが前提の名刺や配布資料などを専用のバインダーに入れて写真を取ると、歪や余白が補正されてきれいにデジタル化出来るというコンセプト。
同じ理屈でノートの見開きの帯を認識して同じようにデジタル化できるラインナップも一応発売されてはいるが、ShotoNoteの補完という事を考えるとメインは前述の使い方になるらしい。
ガジェット好きとしては早速使ってみたいところだが、前回「専用ノートはもはや不要!」と偉そうに宣言した手前、早々にキングジムの足元にひれ伏すのも癪にさわる。ここは負けずに(?)色々工夫してみる事にする。
現在、僕がShotNoteの代替として一番気に入っている組み合わせは、マルマンの「Mnemosyne(ニーモシネ)」というA5サイズのノートパッドにメモを取り、それをCamScannerというアプリで電子化するというもの。ニーモシネは上部に日付タイトル欄があり、5ミリの方眼罫が薄く印刷された用紙は他社の類似製品より明らかに滑らかで、ペンの滑りが良くて書きやすい。
またCamScannerは切り離した用紙単独でも撮影できる上に、自動でエッジを拾ってくれるので補正もしやすい。ここを今回ShotoDocs専用アプリと使い比べてみる事にする。
ところで、ニーモシネはミシン目から切り離した用紙がちょうどA5サイズになるように作られており、逆に綴じられた状態では縦が長すぎて通常のA5パッド用のバインダーにきちんと収まらない。まあニーモシネ専用バインダーを買えば済む話なのだけど、高価な上になぜか最近品切れでネットでは買えない。用紙の全周をきちんと囲むようにコントラストの強い枠を配置せねばならないらしいので、はみ出すのはちょいと都合が悪い。
次善の策として、今回はShotNoteのA5パッドとほぼ同じサイズの「RHODIA」ブロックロディアを使うことにする。
次にShotoDocs専用アプリをダウンロードして、愛用のバインダーにセットしたブロックロディアを撮影。これできれいにエッジを認識すれば「勝った!」ということになるのだがさて。

結果は上々。専用バインダーでなくとも紙のエッジをきちんと認識出来ればOKということが判明。シャッターをさずとも、認識バーが端まで伸びると自動でシャッターが切れる(便利!)ことも確認できた。
ついでなのでビジネスではつきものの名刺を撮影。バインダーの表紙に名刺を置き、同じように自動認識させてみるとこれもまあまあ使える仕上がり。
一方で、スナップ写真や用紙の縁まで絵柄があるカラー資料など、資料の地色自体に柄がのっている場合はうまく認識しない。(これは専用バインダー使っても同じかもしれない)
そんな訳で、専用の商品を買わずとも、勘どころさえ押さえれば十分使える事が分かった。

ちなみに、ShotNoteで以前実験した時は、四隅のマーカーだけではなく「SHOT NOTE」というロゴが欠けただけでもアプリが認識しない鉄壁の囲い込み対策がされていたのに、今回はなんというか緩いというか、個人的には嬉しい仕上がり。
お気に入りの文具も無駄にせずに済みそうなので、せめてものお礼代わりにShotDocs専用ノートも併用していくつもり。

2013年1月24日木曜日

リレンザのお世話になる


「あー、なんだかのどが痛いなー」とそれほど気にもせず体温を計ると40度近かった。
もしやと思って病院に行き、鼻の奥まで綿棒を差し込まれ待つこと10分、あっさり「A型インフルエンザですね」と診断され、「リレンザ」という抗インフルエンザ薬を処方されて帰宅。
考えてみれば直近でインフルエンザにやられたのはもう10年以上前。その時はリレンザもタミフルもまだそれほど出まわっておらず、一般的な解熱剤とトローチを処方され、家で七転八倒の苦しみを経験した記憶がある。その時は熱が一向に下がらず、40度近い熱が数日続いて本当にヘトヘトになった。
ところが、今回はリレンザのおかげだと思うが苦しさが相当緩和されている。というかほとんどない。
まあ、熱はあるしダルいのは事実だが普通にパソコンもいじれるし、普通の風邪と変わるところなく過ごせるのがよい。だが、出勤停止5日間は体の辛さがない分、退屈で普通に堕落しそうである。

それはともかく、ネットにはリレンザによる副作用で異常行動が起きるという一般の人が書いた記事が結構ある。
それらを幾つか拾い読みしてみて驚いたのが、そもそも因果関係が何も証明できないまま「リレンザのせいで子供に異常行動が!」と一方的に断言している記事の多いこと。
インフルエンザは「インフルエンザ脳症」という意識障害に始まる脳障害を起こすことがあり、体が小さく脳が成長しきっていない子供には薬の副作用よりむしろそっちの発生する可能性のほうがはるかに高い。単純に「副作用が!」と素人判断で薬の服用を中止すると、せっかく抑えこまれていたウイルスが勢いを盛り返し、逆に取り返しの付かない重症に陥ることが考えられる。
医者や薬を信用しないのは親の勝手だが、中途半端に薬に頼って、挙句に薬を勝手にやめたりすることだけはやめたほうがいい。せっかくの特効薬に耐性菌(耐性ウイルス)を増やすだけだし、それならいっそ最初から薬なしで立ち向かうべきだと思う。
確かに高熱でしんどい思いをするが、十分な介護体制のもとで安静と十分な水分、栄養補給を欠かさなければせいぜい一週間で回復する。私達だってほんの10年ほど前まではそうして乗り切ってきたのだから。

2013年1月20日日曜日

ボーイング787の緊急着陸はGSユアサのリチウムイオン電池が悪いのか?


山口空港から羽田に向かっていた全日空のボーイング787型機が高松空港に緊急着陸し、その後のニュースで真っ黒焦げになったバッテリーが運び出される映像が流れたことで、僕の周りにも「リチウムイオン電池は怖いよね」という声が多い。彼らは声を合わせてGSユアサのバッテリーを酷評する。
だが、待ってほしい。
電池が発火する原因としてあげられるのは第一に過充電、そして過放電が挙げられる。いずれもバッテリーの性能以上の急激な充電や放電を行うことが原因だが、実はこれらを制御しているのは「充放電コントローラ」と呼ばれるバッテリー外部のユニットである。特にリチウムイオン電池の場合、この充放電コントロール(充電時の電圧と電流値の制御)を厳密にやらないとバッテリーは一発で損傷する。間違っても車用の鉛蓄電池と同じに考えてはいけない。
ユアサが納入した電池にも保護回路は搭載されていたはずだが、今回の場合、どうもユアサはフランスのメーカーにバッテリーセルを幾つか束ねたユニットを納入し、その外にフランスのタレス社が設計、製造したシステムを追加し、これらをひとまとめにして「電源変換装置」としてボーイングに納入したと聞く。電源変換装置全体の包括関係は以下のようになる。
〈「(バッテリーセル)-(バッテリーセル)-充放電コントローラ」-インバータ回路〉
今回の場合、複数の同型機で同様の障害が出ていることから、バッテリーセル単体の不良の可能性はかなり低く、充放電コントローラー、あるいはインバータ回路の設計ミスの可能性が一番高いように思われる。
それぞれ別々の国でバラバラに作られた製品であり、こんな時はインターフェース部分のマッチングが一番の問題になる。規格通り作られていない箇所が一箇所でもあると、系全体の最もデリケートな部分に負担が集中する。今回はそれがバッテリーだったということではないだろうか。
今回の一連の事故をよくみてみると、ローガン空港ではAPU(補助動力装置)が発電を開始した時点、高松空港緊急着陸の場合は山口離陸後、メインエンジンの発電機から電気が供給された時点で発煙している。
いずれも電力母線に発電機側から電力が送り込まれた事がキッカケになっている。リチウムイオンバッテリーに充電する電圧と電流はもちろん過大であってはならず、充電当初は電流を一定に保ち、バッテリーの定格まで回路電圧が上昇した時点で今度は電圧を一定に保ち、電流が完全に流れなくなったら充電を中止しなくてはならない。だが、制御すべき電圧を間違えたり、大電流を際限なく流しこんだりすればどうだろうか?
あるいはタレス社のインバーターが定格を超えた電力をバッテリーに要求したらどうなるだろうか?
また、過充電や過放電により一旦バッテリーセルの温度が上がり始めると、リチウムイオン電池は「熱暴走」と呼ばれる厄介な現象を起こす。
発生した熱でバッテリーセル内部の化学反応が異常加速し、さらに急激に発熱、最後には燃え上がってしまうというもので、今回は(黒焦げになった写真を見る限り)熱暴走が最後まで行き着いてしまったようである。
過充電、過放電、あるいはその他の要因いずれが異常発熱の原因になったかについては、今回の事故機のもの含め787全機を調べ、バッテリーセルのどの部分でどのような変化が起きているかを調べればかなり詳しく(過充電、過放電のいずれが原因か)判る。
実際、世界中の787で遅かれ早かれ今回のような事故が起きる可能性があったわけで、今回は誰の命も失われることなく事故調査フェーズに移行できたことは不幸中の幸いだと思う。少しでも早く事故原因が完全に(国や企業の圧力を受けず)解明されることを心から願う。

2013年1月19日土曜日

リチウム電池の宅配便輸送に関して調べてみた


たまたま実家にタブレット端末を送る事になり、近所の郵便局に持ち込んだ所、
「航空輸送できませんので陸路になります。通常より日数かかりますけどよろしいですか?」
と訊かれた。ボーイング787の緊急着陸などもあり、ああそうか厳しくなっているんだなあと漠然と理解して「はい、お願いします」と答えたのだけど、本当にゆうパック(航空貨物)として送ることができないのかというと、実はほとんどの場合できる。というかできなきゃ困る。
特に電池と一体になって取り外すことのできないタブレット端末などの場合、電池だけ外して現地で手配してくださいなんてことも不可能なわけで、知らないこちらも悪いが窓口の担当者は勉強不足だったわけだ。

では、具体的にどうやって送るか。
結論から言うと、日本郵便のこのページを参考に、ラベルをプリントアウトして「種類」「包装基準」「連絡先電話番号」を記入の上荷物に貼り付けて窓口に出せばよい。
ところが、である。電話番号はともかくとして、「種類」「包装基準」についてどう判断すればよいのか、このページの記述だけではさっぱりである。
その親ページに「お知らせ」としてもう少し詳しい記載があるが、これでもまだ良くわからない。
そこで、自分の理解ついでに大雑把に解説してみることにする。

僕らが送ろうとする機器類(ノートPCやタブレット、スマホ、ビデオカメラ等)に搭載されているのはほとんどの場合、「リチウムイオン電池」と考えていい。電池パック単体が見られる機器の場合はパックの表面に「リチウムイオン電池」「Li-ion」「LiB」といった表記があるはずだが、無い場合は機器の仕様をWebやメーカー問い合わせで確認する必要がある。

次に「単電池」「組電池」の区別だが、これはセル数を示している。
かなり荒っぽい判断ではあるが、PCやビデオカメラ等の場合、電池の定格電圧が1.2~1.5V程度の場合は「単電池」、電圧がそれらの倍数(例えば2.4V~3V、3.6V~4.5V、4.8V~6Vあるいはそれ以上)の場合はまず組電池と判断して良い。(最近は薄型のリチウムポリマー電池など新手の電池も出てきているので断言はできないが)

次に電力量だが、これは電圧×電流で表すことができるので。電池に書かれているそれらの値から算出すれば良い。
手元にあるスマホのバッテリーには「3.8V 2100mAh」とあるので3.8×2.1=7.98Whということになる。もしWh標記がないときは計算した値をマジックで手書きするか、ラベルプリンターなどで電池パックに貼付する。(単電池の場合はWh表記は不要)

この時点で、単電池で20Wh以上、あるいは組電池で100Whを超える場合は航空輸送不可となる。

さて、ここまでクリアできたら、次は「種類」を判定しなくてはいけない。
電池単体で送る場合は「965」、機器から電池を取り外し、同じ梱包で送る場合は「966」、そして機器組み込みの状態、あるいは取り外し出来ない場合は「967」となる。(金属リチウム電池の場合は同じ条件で「968」「969」「970」となる)
で、それぞれの種類に合わせて包装基準は以下のようになる。この基準にそって梱包し、「包装基準」欄には先程の種類番号の頭に「PI」をつけて、例えば「PI966」などと書く。
梱包の条件は結構くどくど書かれているので簡単にまとめると、
  • 10キロを超える重い梱包はNG(電池単体の場合)
  • 電池にショートの危険があるような梱包はNG(水濡れなどの場合でも)
  • 一梱包に三個以上の電池は送れない。
  • 取り落とした時に電池に何らかのダメージが及ぶ梱包はNG
という事。まあ、そんなに厳しいわけでもない。念のため以下に原文を転載しておく。

「965」及び「968」の場合
  • 単電池及び組電池は完全に単電池又は組電池を閉じ込める内装容器に包装されなければならない。
  • 単電池及び組電池は短絡(ショート)を防ぐよう保護されなくてはならない。これには短絡をもたらす可能性がある同一の容器内の伝導性物質との接触に対する保護も含まれる。
  • 各包装物は1.2mからの落下試験をいかなる方向おこなっても以下のようなことが起きないものでなければならない。
     その中に収納されている単電池又は組電池への損傷
     組電池と組電池(又は単電池と単電池)とが接触するような内容物の移動
     内容物の漏出
  • 各包装物の総重量は10kg未満
「966」及び「969」の場合
  • 単電池及び組電池は完全に単電池又は組電池を閉じ込める内装容器に包装されなければならない。
  • 単電池及び組電池は短絡(ショート)を防ぐよう保護されなくてはならない。これには短絡をもたらす可能性がある同一の容器内の伝導性物質との接触に対する保護も含まれる。
  • 各包装物は1.2mからの落下試験をいかなる方向おこなっても以下のようなことが起きないものでなければならない。
     その中に収納されている単電池又は組電池への損傷
     組電池と組電池(又は単電池と単電池)とが接触するような内容物の移動
     内容物の漏出
  • 各包装物内に入れることができる組電池の最大個数は機器を駆動するために必要な最小の個数に2個の予備を加えたものである。
「967」及び「970」の場合
  • 機器は偶発的な起動を防ぐ効果的な手段を備えていなければならない。
  • 単電池及び組電池は短絡(ショート)を防ぐよう保護されなくてはならない。
  • 機器は組電池が収納されている機器により同等の保護が可能でなければ、容器の容量及び意図された使用方法に関わる十分な強度の適切な材料および設計により組み立てられた強固な外装容器内に包装されなければならない。
これらはゆうパックが遠隔地向け(陸路3日以上)貨物輸送には航空機を使うため、IATA(国際航空運送協会)の規定に従わざるを得ないための規定だ。ゆうパックが特に意地悪なわけではなく、陸路輸送が中心の佐川急便やクロネコヤマトも超速便などと呼ばれる速達便や沖縄などの島嶼向けに関しては本来同様の条件が課せられる。
たぶん、今までは現場の判断で受け取っていたであろうこれらの荷物の受け入れは、今回の事故を受けて一層厳しくなることが予想される。
また、現時点での情報を元に書いているので、今後条件が変わる可能性があることを添えておく。

2013年1月9日水曜日

「NWSΩType2」を超える最強金属は生み出せるか


NWSの正体が僕の勝手な想像に近いとすると、実は材料工学的にあの硬さを超える金属を作り出すのはかなり困難ではないかと考える。もはや対決のレベルが生産現場の知恵が追いつかない高みまで来ているからだ。
それでもまあ、あえて考えるとすると、前回の記事で取り上げた炭化ケイ素を超える硬さを持つ素材として考えられるのは、「炭化ホウ素」である。
別名ブラックダイヤモンドとも呼ばれ、ファインセラミックの中で最高の硬度を誇る。軽いくせに猛烈に硬く変形しにくいありがたい素材だが、加工が他の素材よりも格段に難しく、これまで量産ベースの話は聞いたことがない。日本タングステンのWebサイトを見ても、炭化ケイ素配合製品までは取扱があるが、炭化ホウ素については(少なくともラインナップには)見当たらない。
ところが、最近になって独立行政法人産業総合研究所(美少女?ロボット「HRP-4C未夢」を製作した組織)が炭化ホウ素の新しい焼結技術を開発した事で状況が変わってきた。
日本タングステンがこの手法を用いているかどうかは不明だが、情報は持っているはずなので実験室レベルでは再現可能だろう。ほこ×たてで用いられている試験体くらいの大きさなら恐らく作れるのではないかと思う。
炭化ホウ素の硬度はHV=最大3500程度とされているので、炭化タングステンをベースにお馴染みの二ホウ化チタン、加えて炭化ホウ素を配合し焼結することでHV=2700程度の材料は作り出せるのではないだろうか?
また、単純に硬さを追うのでなければ、材料の構造に工夫する方法もある。
番組の中で日本タングステンのエンジニアが「ミルフィーユのように多層構造にしては?…」と話していたのが印象に残った。これはアニメ「エヴァンゲリオン」の中で第五使徒ラミエルの貫通攻撃に対しネルフが多層装甲板でこらえたよう(マニアックなたとえでゴメン)に、繰り返し現れる猛烈に硬い層でドリルの消耗を狙い、間にある粘りのある素材が硬い層を支えて材料全体が割れてしまうのを防ぐという方法だ。
これなら硬さと割れにくさの両方を高いレベルで追求できるが、一方で硬い層そのものの厚さは材料全体の半分以下になってしまう。単純な理屈では固い層の耐久力が全体を同じ硬さにした場合の倍近くないと不利になる。
もう一つは表面コーティングである。
NWSΩType2は表面をテカテカに磨くことで手がかりをなくし、ドリルが材料に噛み付くのをできるだけ遅らせるという工夫がしてあったが、これを一歩推し進めて、表面にきわめて微小なダイヤモンドをコーティングするという方法があるだろう。
ドリル側がダイヤモンドの超砥粒を超硬パイプに電着している十八番を奪う形だが目的が違う。
ドリル側は刃としてダイヤモンドを使うのに対して、もっとずっと粒度の小さなダイヤモンドで表面にきわめて平滑な硬い防御層として配置するわけだ。
最強(硬い)金属という名目からすると若干これじゃない感が漂う上にかなり裏技っぽいので九州男児(?)のニッタンでは採用されないかもしれないが、次のチャレンジャーがどんな飛び道具を備えてくるのか分からないので検討の余地はあろうと思う。
ともかく、テレビ的には半年後くらいの再戦が望まれるところだが、いずれにしても求められるレベルが高くなりすぎているので、一年くらいは待つ必要があるかも知れない。待ち遠しいことである。

2013年1月8日火曜日

ほこ×たて「NWSΩType2」の正体は?


日本タングステンの中川内氏曰く「NWSΩType2」の正体は「企業秘密」ということだが、その成分を推測する上で大きなヒントになるのが硬さである。
番組中でもHV=2119(別の記事によると2190)という数値が出ていたが、これはビッカーズ硬度という硬さの単位を表している。ダイヤモンドの四角錐をテストする材料にぐいっと押し当てて、材料に残されたくぼみの大きさを基にして硬さを数値化するというもの。
詳しい数式はWikipediaでも見てもらうとして、地球上で最も硬いダイヤモンドそのものの数値がだいたい7000から10000程度。これを上限として、金属では純アルミがたったの30、一般的に硬い材料と考えられるステンレスで大体200程度、工具に使われるめちゃくちゃ硬い鋼材でやっとこさ700前後だから、この「NWSΩType2」硬さのほどが知れるというもの。
不二越の堀功氏がNWSの事を「人工(の金属素材)としては世界で最も硬い」と評しているのもあながち大げさな話ではない。
これに匹敵する硬さを持つものを自然界で探してみると、コランダムという鉱物がだいたい同じ。宝石としての呼び名でサファイヤとかルビーとか呼ばれる代物くらいしかない。
あとは隕石の中にほんの僅かに含まれるという炭化ケイ素(超硬ファインセラミックとして人工生成もされる)がHV=2300程度と非常によく似た硬度だったりする。
人工物としては、日本タングステンの十八番であろう炭化タングステンがだいたいHV=1700前後。
(初代NWSが確かそのくらいの硬さであったと記憶)、二ホウ化チタンがHV=2700程度。
そんなわけで僕は、炭化タングステンをベースに、二ホウ化チタン、加えて炭化ケイ素の微粉末を多めに配合し、そこに多少の鼻薬を効かせた上で高圧で押し固め、2000度くらいでじっくりじっくり焼きあげたものが「NWSΩType2」の正体だと想像している。
ただし、ベース材の炭化タングステンからして金属とは言いにくいし、セラミックの割合がここまで多くなるともはや最強「金属」と呼べるかどうかは疑問。まあドリル側もどう見ても「ドリル」とは言えない形状なのでおあいこか。
また、二ホウ化チタンや炭化ケイ素の比率をもっと上げれば確かにさらに硬くすることは可能だと考えるが、同時にこれらは大変もろい素材であり、配合比を上げすぎると対OSG戦の一回目のように割れてしまう恐れがある。ベース材との配合比は相当気を使ったのだろうと思われる。

民放バラエティ「ほこ×たて」が促す冶金工学上の進化(2)


2013年の年頭を飾るにふさわしい「ほこ×たて」名物の究極対決が放送された。
ご存じ「絶対に穴を開けるドリルVS絶対に穴の開かない金属」だ。
言うまでもなくこの企画は材料(冶金)工学と機械工学の対決なのだけど、対決した両者をよく知っているという人は理系出身であってもかなり少ないのではないかと思う。
最強金属を生み出した「日本タングステン」という会社自体、元は老舗の配電盤メーカーの下で地道に電極や電線材料を作っていたという出自に加え、TVCMも打たず、本社を未だに福岡に置いているという、いかにも九州の会社らしい質実剛健な社風もあって一般的にはそれほど有名ではない。
一方の不二越も、工場などで日常的にドリルや切削工具に触れたことのない人にとっては(たとえ「Nachi」というブランドを知っていたとしても)ほとんど聞いたことのないメーカーだと思う。
いずれも普通の人が身近に触れる最終製品(パソコンやテレビなど)を作っていない会社だからだ。
だが、実は日本の産業を支えているのは世界的に見ても高い技術的アドバンテージを持っているこれらの裏方的な企業なんだということは知っておいた方がいい。
ところで、今回対決した不二越も日本タングステンも、超硬合金の開発に関してはほとんど同業と言ってもいい。不二越が工具、ニッタンが素材という会社のカラーはあるけれど、似たような素材を相手に日々それぞれの研究開発にいそしんでいる。
両者が生み出す超硬合金の主成分はタングステンという重くて硬い金属で、1781年に世界で初めてこの金属を生み出したスウェーデンの言葉で「重い金属」を意味している。
以来、伝統的にスウェーデンの会社が強く、社員5万人、年間売上一兆円を超す世界最大の超硬工具メーカー「サンドビック」はスウェーデンに本社がある。
今回対決した不二越は町の名前や駅の名前まで社名が冠されていてかなりの巨大企業に見えるけど、グループ含め社員5600人、売上1600億円なので実はサンドビックのたった1/10の規模しかない。日本タングステンは社員377人、売上102億なのでそのさらに1/10だったりする。世界にはまだまだ上がいるのだ。
それはともかく、これらの企業が提供する超硬合金製品は極端な素材なので、やはりその用途は特殊な分野に限られており、スウェーデンほかアメリカ、イスラエルなどのメーカーを中心に軍用、航空・宇宙分野での需要が大きい。
逆に言うと日本のようにほとんどが民間向け中心でここまで超硬合金の研究開発が進んでいる国は他になく、この対決の前に不二越の堀氏が言われた「(最先端の)航空・宇宙分野に日本が貢献できるであろう、人工物としては世界最強の金属にきちんと穴を開けて、この金属が(単なるキワモノでなく有用な素材として)使えるという事を証明しなくてはいけない」という言葉は、じっくり読み解くときわめて深い。
そんなわけで、正月から日本メーカーの底力を見せつけられる素晴らしい番組だったのだけど、この先この対決がどうなっていくかという点にも興味がわく。
日本企業で超硬工具のトップメーカーは三菱マテリアルだが、優等生的な会社の性格からして勝敗の見えない勝負に出てくるとは考えにくい。海外大手では日本にも工場を構えるサンドビックがわずかに可能性があるかどうかといったところだろうか?
順当に行けばOSGの大沢氏が再戦を申し込んでくる可能性が最も高いとおもわれるが、さすがに三度目ともなるといささか執念深くて潔くない感じがする(エンジニアとしては逆に必要な資質だが)のでちょっと微妙。とすると、個人的には「ドリル」の定義を今以上に拡大解釈する方向に行くのではないかと予想。(OSGや不二越の製品はもはや「ドリル」とは言い難く、エンドミルに分類するべき)
例えば、超硬チップを先端に取り付けた特殊な切削工具(フェイスカッター)的なものや、ダイヤモンドの粉を混入したウォータージェットカッター、レーザー加工機などを無理矢理にでも「ドリル」として認めるかどうかというところだろうか?
いずれにしてもこれだけの名物企画に成長したのだから、諸外国のように軍需に頼らず、いかにも日本らしく民放のバラエティ番組で先端技術が進化するという不思議な現象の行末を最後まで見届けたいと思う。

2013年1月7日月曜日

民放バラエティ「ほこ×たて」が促す冶金工学上の進化(1)


2013年の年頭を飾るにふさわしい「ほこ×たて」名物の究極対決が放送された。
ご存じ「絶対に穴を開けるドリルVS絶対に穴の開かない金属」だ。

個人的には、対決自体もものすごく面白いのだけど、クライアントから金をもらい、CMのプライスパフォーマンスを最大の命題として考える民放のバラエティ番組が、事実上基礎工学の範疇に入る冶金工学上の進化を促しているという点が非常に興味深い。
本来、現代科学で実現可能と考えられる事で絶対に実現できないことはない。
それこそ火星に人を送ることだって、地球のコアまで穴を開けることだって、最高の技術者をそろえて国家予算レベルの予算をかければなんだってできる。
それが未だに達成できないのは、他にもっと金と人をかける必要がある問題がある、あるいはかけたコストに見合うリターンがないと大多数の人が考えているだけにすぎない。
当然、フジテレビはもちろん不二越も日本タングステンも民間企業、不況と言われる昨今、お金にならないチャレンジは普通なら出来ない。番組に向けて開発された超硬金属にしても究極ドリルにしても、現時点では用途自体が追いついていないわけで、言い換えれば「作っても売れない」商品でしかない。
しかし、今回の企画は番組制作をしているフジ側も予算に応じた高い視聴率や民放連の最優秀賞という効果が得られているし、対決した不二越にしても日本タングステンにしても、たとえ電通や博報堂に何億積んでも達成できないであろうCM効果を経営層が認めているわけで、三社ともにそれぞれ得をしている。その上で、地味な上に需要がなくて(企業所属のエンジニアが)やりたくても出来なかった工学上の究極のトライが経済的に成り立っているのだ。
公立の地方科学館に勤務し、地味かつお金にならない(と思われている)科学技術のインタープリテーションを命題とする自分たちにとって、この企画が示唆している現実は重い。