山口空港から羽田に向かっていた全日空のボーイング787型機が高松空港に緊急着陸し、その後のニュースで真っ黒焦げになったバッテリーが運び出される映像が流れたことで、僕の周りにも「リチウムイオン電池は怖いよね」という声が多い。彼らは声を合わせてGSユアサのバッテリーを酷評する。
だが、待ってほしい。
電池が発火する原因としてあげられるのは第一に過充電、そして過放電が挙げられる。いずれもバッテリーの性能以上の急激な充電や放電を行うことが原因だが、実はこれらを制御しているのは「充放電コントローラ」と呼ばれるバッテリー外部のユニットである。特にリチウムイオン電池の場合、この充放電コントロール(充電時の電圧と電流値の制御)を厳密にやらないとバッテリーは一発で損傷する。間違っても車用の鉛蓄電池と同じに考えてはいけない。
ユアサが納入した電池にも保護回路は搭載されていたはずだが、今回の場合、どうもユアサはフランスのメーカーにバッテリーセルを幾つか束ねたユニットを納入し、その外にフランスのタレス社が設計、製造したシステムを追加し、これらをひとまとめにして「電源変換装置」としてボーイングに納入したと聞く。電源変換装置全体の包括関係は以下のようになる。
〈「(バッテリーセル)-(バッテリーセル)-充放電コントローラ」-インバータ回路〉
今回の場合、複数の同型機で同様の障害が出ていることから、バッテリーセル単体の不良の可能性はかなり低く、充放電コントローラー、あるいはインバータ回路の設計ミスの可能性が一番高いように思われる。
それぞれ別々の国でバラバラに作られた製品であり、こんな時はインターフェース部分のマッチングが一番の問題になる。規格通り作られていない箇所が一箇所でもあると、系全体の最もデリケートな部分に負担が集中する。今回はそれがバッテリーだったということではないだろうか。
今回の一連の事故をよくみてみると、ローガン空港ではAPU(補助動力装置)が発電を開始した時点、高松空港緊急着陸の場合は山口離陸後、メインエンジンの発電機から電気が供給された時点で発煙している。
いずれも電力母線に発電機側から電力が送り込まれた事がキッカケになっている。リチウムイオンバッテリーに充電する電圧と電流はもちろん過大であってはならず、充電当初は電流を一定に保ち、バッテリーの定格まで回路電圧が上昇した時点で今度は電圧を一定に保ち、電流が完全に流れなくなったら充電を中止しなくてはならない。だが、制御すべき電圧を間違えたり、大電流を際限なく流しこんだりすればどうだろうか?
あるいはタレス社のインバーターが定格を超えた電力をバッテリーに要求したらどうなるだろうか?
また、過充電や過放電により一旦バッテリーセルの温度が上がり始めると、リチウムイオン電池は「熱暴走」と呼ばれる厄介な現象を起こす。
発生した熱でバッテリーセル内部の化学反応が異常加速し、さらに急激に発熱、最後には燃え上がってしまうというもので、今回は(黒焦げになった写真を見る限り)熱暴走が最後まで行き着いてしまったようである。
過充電、過放電、あるいはその他の要因いずれが異常発熱の原因になったかについては、今回の事故機のもの含め787全機を調べ、バッテリーセルのどの部分でどのような変化が起きているかを調べればかなり詳しく(過充電、過放電のいずれが原因か)判る。
実際、世界中の787で遅かれ早かれ今回のような事故が起きる可能性があったわけで、今回は誰の命も失われることなく事故調査フェーズに移行できたことは不幸中の幸いだと思う。少しでも早く事故原因が完全に(国や企業の圧力を受けず)解明されることを心から願う。