2013年の年頭を飾るにふさわしい「ほこ×たて」名物の究極対決が放送された。
ご存じ「絶対に穴を開けるドリルVS絶対に穴の開かない金属」だ。
個人的には、対決自体もものすごく面白いのだけど、クライアントから金をもらい、CMのプライスパフォーマンスを最大の命題として考える民放のバラエティ番組が、事実上基礎工学の範疇に入る冶金工学上の進化を促しているという点が非常に興味深い。
本来、現代科学で実現可能と考えられる事で絶対に実現できないことはない。
それこそ火星に人を送ることだって、地球のコアまで穴を開けることだって、最高の技術者をそろえて国家予算レベルの予算をかければなんだってできる。
それが未だに達成できないのは、他にもっと金と人をかける必要がある問題がある、あるいはかけたコストに見合うリターンがないと大多数の人が考えているだけにすぎない。
当然、フジテレビはもちろん不二越も日本タングステンも民間企業、不況と言われる昨今、お金にならないチャレンジは普通なら出来ない。番組に向けて開発された超硬金属にしても究極ドリルにしても、現時点では用途自体が追いついていないわけで、言い換えれば「作っても売れない」商品でしかない。
しかし、今回の企画は番組制作をしているフジ側も予算に応じた高い視聴率や民放連の最優秀賞という効果が得られているし、対決した不二越にしても日本タングステンにしても、たとえ電通や博報堂に何億積んでも達成できないであろうCM効果を経営層が認めているわけで、三社ともにそれぞれ得をしている。その上で、地味な上に需要がなくて(企業所属のエンジニアが)やりたくても出来なかった工学上の究極のトライが経済的に成り立っているのだ。
公立の地方科学館に勤務し、地味かつお金にならない(と思われている)科学技術のインタープリテーションを命題とする自分たちにとって、この企画が示唆している現実は重い。